多くの企業が業務改善のためにkintoneの導入を検討していますが、華やかな成功事例の裏側には、担当者の多大な努力と様々な苦労が存在します。
kintoneは、導入すれば簡単に成功するわけではないからです。
本記事では、実際のkintone担当者が経験した導入のリアルな道のりを紐解き、kintone導入を成功に導くための具体的な秘訣を解説します。
kintoneをこれから活用しようと考えている企業にとって、導入時や運用時に陥りやすい落とし穴や、成功のポイントを理解するための一助となるでしょう。
なお、ペパコミ株式会社では、「kintone」を活用した業務支援を行っています。業務効率化にお悩みの方は、ぜひ以下からお気軽にご相談ください。
kintone導入の背景と初期段階の課題
kintoneの導入は、まず組織内の特定の課題解決を目指すことから始まります。
ここでは、ある建設業の中小企業におけるkintone導入の背景と、初期段階で直面した課題について詳述します。
DXプロジェクトとkintone導入のきっかけ
この企業では、約3年前に若手社員を集めたDXプロジェクトが立ち上がりました。ウェブサイトの更新や新商品開発などが行われる中で、顧客データ活用のためにkintoneが導入されました。
当初、導入担当者は自身の部署でkintoneの必要性を感じておらず、Excelで対応可能だと考えていました。
しかし、別の部署が紙で顧客管理を行っていたことや、請求書がkintoneで発行できることを知ったことから、自身の業務にも応用できる可能性に気づき、kintoneの学習を始めました。
手書き業務からの脱却と請求書アプリの構築
導入担当者がkintoneに関心を持ったのは、手書きで売上伝票、仕入れ伝票、請求書を作成する業務が煩雑だったからです。
自身の業務を改善するため、YouTubeなどで独学し、kintoneでこれらの伝票を作成できる仕組みを構築しました。
この独学の過程では、YouTube動画を片っ端から視聴し、実際に手を動かしてアプリを作成することを繰り返しました。
特に、基本機能ではルックアップや関連レコードの設定に苦労がありましたが、他の機能は比較的スムーズに習得できました。
プラグインのクルーデータについては、コマンドの仕様を覚えるのに約2〜3ヶ月を要しました。クルーデータドリルを参考に、事例をひたすら作り、動かすことで理解を深めました。
経営層からの要望と現場とのギャップ
自部署の業務改善としてkintoneアプリを作成し上司に提案した際、「売上に直結する部分を見せてほしい」という要望が出されました。
しかし、具体的なイメージが共有されず、担当者は困惑しました。自身の業務効率化を目的としていたため、売上向上に直結するkintoneの活用方法を考えるのは困難でした。
kintoneの機能を詳細に理解し、さらに会社の経営戦略に紐づけて売上向上策を立案することは容易ではないからです。
この課題に対し、担当者はまず自分が行っている業務をkintoneに置き換えることに注力しました。
手書きで作成していた伝票をkintoneで全く同じように出力できることを示すと、部署内のkintoneに対するイメージが大きく変わりました。
特に、伝票発行の部分であればkintoneが役立つという認識が生まれ、そこからkintoneの利用が進み始めました。
運用フェーズにおける現場への寄り添い
kintoneの導入後、実際に現場で運用を開始すると、様々な問題が発生することがあります。
スムーズな定着化のためには、現場の声に耳を傾け、迅速に対応する姿勢が重要になります。
他社事例からの学びと行動
kintoneの運用フェーズにおいて、担当者は他社の成功事例から多くの学びを得ていました。
特に、kintoneハブというコミュニティで聞いた事例が役立ったと述べています。これらの情報収集は、担当者とDXプロジェクトメンバーの計2名で行われており、得られた知見は社内で共有されました。
他社の事例から得た学びを活かし、具体的な運用策として主に以下の3点を実践しました。
項目 | 具体的な対応 |
現場巡回 | 直接営業所へ出向き、現場でkintoneの操作方法を教える機会を設けました。本社に集めて説明するだけでなく、各営業所を訪問して説明することで、担当者は「自分のパソコンでやれるので理解しやすかった」という声を聞きました。 |
即時対応 | 問い合わせの連絡が来た場合は、すぐに電話で対応することを心掛けました。 |
変更依頼の検討 | 運用中のkintoneアプリに関する変更依頼が来た場合、たとえ難しくても、実現する方法がないかを検討する姿勢を持ちました。 |
これらの行動は、現場の社員がkintoneに抵抗感を持たないようにするためです。
新しいシステムに加えて、担当者が協力的でないという二重の抵抗感を避けるため、現場に寄り添い、味方であるという姿勢を示すことを意識しました。
抵抗感をなくすための意識
kintoneの運用を進める上で、現場の抵抗感を最小限に抑えることは重要です。
担当者は、kintoneそのものへの抵抗感に加えて、システムの担当者に対する不信感が生まれる状況を避けるよう努めました。
例えば、現場を直接訪問した際、パソコン操作が苦手な社員が「自分のパソコンでやる」ことに安心感を得るという発見がありました。
どのパソコンでも同じように動作するクラウドシステムであるkintoneであっても、使い慣れた環境で説明を受けることは、理解を深める上で大切です。
この経験から、その後も定期的に営業所を訪問し、問題点や困りごとを聞く機会を設けるようにしました。
他社事例から得た知識がなければ、このような現場訪問の重要性に気づかず、現場の社員がkintoneの使い方を十分に理解しないまま運用が開始される可能性があったでしょう。
内製化フェーズの苦労と習得プロセス
kintoneの導入と運用が進むと、社内でのアプリ開発(内製化)が求められることがあります。
内製化を進める上では、kintoneの知識習得と効果的なプラグインの選定が重要になります。
独学での構築と学習方法
kintoneの導入担当者は、初期段階から自身でアプリを構築していました。kintoneアプリの作り方を学ぶ際、YouTube動画をひたすら見て学習を進めました。
特に、基本機能に関しては動画を見て作成できるようになりました。この学習方法は、手を動かしながら試行錯誤を繰り返すことで、徐々に知識を定着させるものでした。
プラグイン習得の難しさ
kintoneの機能を拡張するプラグインは、その使い方を学ぶのに時間がかかる場合があります。
特にクルーデータなどの複雑なプラグインは、コマンドの仕様や組み合わせ方を理解するのに2〜3ヶ月を要しました。
担当者は、プラグインの使い方を習得するために、実際にプラグインを使ってアプリを作成する実践的な学習を行いました。
クルーデータドリルなどの教材も活用しましたが、最初はうまくいかないこともあり、事例を半分ほどひたすら作成し続けることで、徐々に理解が深まりました。
プラグイン選定の考え方
kintoneには数多くのプラグインが存在するため、どのプラグインを選ぶべきか迷うことがあります。
担当者は、実現したいことをYouTubeで検索し、プラグインの紹介動画を参考にしました。
その後、実際にトライアル版のプラグインを使用し、自社の要件に適合するかどうかを検証する方法で選定を行いました。この試行錯誤のプロセスが、適切なプラグインを選ぶ上で重要でした。
kintone定着化の鍵は「使わざるを得ない状況」と「手厚いサポート」
kintoneを導入しても、社員が実際に利用しなければ定着はしません。
この企業では、kintoneを定着させるために「使わざるを得ない状況」を作り出すことと、「手厚いサポート体制」を整備することの2点が重要であると認識していました。
強制的な導入による定着化
導入当初、担当者は簡単なアプリから運用を開始しました。
例えば、紙をスキャンしてデータ化し、kintoneにアップロードするだけのアプリは、誰でも簡単に使用できるため、利用促進につながりました。
さらに、請求書アプリの導入においては、インボイス制度への対応が求められる中で、kintoneでしか請求書を発行できない状況を作り出しました。
これにより、社員はkintoneを使用せざるを得なくなり、結果的に導入がスムーズに進みました。
この「使わざるを得ない環境」は、社員がkintoneに否応なく向き合うきっかけとなり、その中で初めて疑問点や改善要望が現場から出てくるようになります。
迅速なサポート体制の重要性
「使わざるを得ない状況」を作り出しただけでは、社員はkintoneに対して不満を抱く可能性があります。
そのため、同時に「手厚いサポート体制」を整えることが非常に重要です。現場から「使い方が分からない」「ここを改善してほしい」といった声が上がった際に、担当者が迅速に対応することで、社員はkintoneの利用を継続しやすくなります。
この企業では、問い合わせに対して瞬時に対応する姿勢を徹底しました。現場の質問や要望に対してすぐに回答し、可能な限り対応することで、運用や定着が円滑に進みました。
この2つの要素、「使わざるを得ない環境」と「万全のサポート体制」を両立させることが、kintoneを社内に定着させる鍵となります。
kintone運用における現在の課題と注意点
kintoneの定着が進む一方で、運用段階で新たな課題や注意点も明らかになってきます。
これらの課題を認識し、適切に対処することが、長期的なkintone運用の成功につながります。
問い合わせ増加と担当者の負担
kintoneの利用が広がるにつれて、現場からの問い合わせやアプリの改修依頼が増加します。
この企業では、kintoneの問い合わせや改修を導入担当者1人で対応しているため、新しいアプリの開発に手が回らなくなるという課題に直面しています。
問い合わせの内容としては、kintoneの基本的な使い方が分からないという質問や、フィールドの表示順、一覧表示の変更依頼など多岐にわたります。
データ入力の課題と修正作業
データ入力に関しては、役職名の表記ゆれの修正が大きな課題となっています。
入力時には注意を促していますが、人が手入力する以上、どうしてもずれが生じてしまい、その修正作業に時間が取られています。これは、kintoneの利用が進むにつれて顕在化しやすい課題です。
また、kintoneを運用する上で、特定の基本機能の挙動には注意が必要です。
- ルックアップで関連付けられたレコードは、参照元が変更されても、参照先のデータは自動的に更新されない
- kintoneの基本機能では、あるドロップダウンの選択内容に応じて、別のドロップダウンの表示を制限する機能はない
上記の注意点は理解しておきましょう。
現場要望への対応方法
現場の社員からは、kintoneの改善に関する様々な要望が上がります。
担当者は、すぐに「できません」と回答するのではなく、一度試してみてから「やってみましたが、できませんでした」と説明することを心がけています。
これは、現場の声を頭ごなしに否定せず、寄り添う姿勢を示すためです。ただし、プログラムによるカスタマイズは、kintone側のアップデートによって機能しなくなる可能性を考慮し、現在は避ける方針です。
kintone導入の総括とアドバイス
この企業におけるkintoneの導入は、当初の目的であった手書き業務の削減にある程度の効果をもたらしました。
しかし、まだ社内全体にkintoneが深く浸透しているとは言えない状況です。
この企業は、手書き業務が残る「昭和の企業」でしたが、kintoneを導入したことで、パソコン操作が苦手だった社員も使えるようになりました。
また、若い社員が情報に容易にアクセスできるようになり、情報活用の点で大きな改善が見られました。
kintoneは様々な機能を持つシステムですが、まずはパソコンの操作に慣れるための「研修」として導入してみることも有効な手段であるという見解が示されています。
kintone導入の成功は、単にシステムを入れるだけでなく、現場の状況を理解し、きめ細やかなサポートを行い、時には「使わざるを得ない状況」を作り出すという、複合的な努力によって実現されるものです。
なお、ペパコミ株式会社では、「kintone」を活用した業務支援を行っています。業務効率化にお悩みの方は、ぜひ以下からお気軽にご相談ください。
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