kintoneは、日々の業務改善を支援するツールとして多くの企業で活用されています。
しかし、その導入や運用においては、担当者が直面する「リアルな質問」や「苦悩」が存在していることも少なくありません。
本記事では、kintoneの実際の運用経験から得られた知見を基に、質問への回答方法を変えることで得られる変化や、導入・内製化・定着化の各フェーズで直面する具体的な課題と、それを乗り越えた先に広がる効果について解説します。
また、本記事の内容はプラグインの本来の目的や全ての使い方を網羅しているわけではない可能性があることを理解しておきましょう。実際にプラグインを導入する際は、提供元が公開している公式情報なども合わせて確認することをおすすめします。
あくまでこんなことが出来るんだ。というイメージをしてもらう目的で記事にしていることをご了承下さい。
なお、ペパコミ株式会社では、「kintone」を活用した業務支援を行っています。業務効率化にお悩みの方は、ぜひ以下からお気軽にご相談ください。
kintoneのリアルとは何か
kintoneの導入事例は華々しく語られることが多い一方で、実際には多くの企業がその過程で様々な苦労を経験しています。
この「kintoneのリアル」とは、担当者が現場で直面する失敗や使いづらい点、そしてそれらを乗り越えるための努力や工夫です。
kintoneの構築や運用に携わる人々が、その現実を知ることで、不幸な導入事例を減らし、成功へと導くためのヒントを得られるようにします。
ケアパートナー株式会社におけるkintone導入の背景
ケアパートナー株式会社は、介護や保育を事業とする約3,000人規模の会社です。主にデイサービスのような通所介護事業が中心であり、多くの店舗を展開しています。
kintoneの導入は8年前に行われ、同社で13年目のキャリアを持つハッシー氏が導入当初から携わっています。
導入当初、ハッシー氏は自身がkintoneのベテランであるとは認識していませんでした。
導入のきっかけは、別の部署がkintoneの導入を決定し、本社での研修を通じて触れることになったことです。
当初は総務部がkintone導入の中心部署であり、本社社員全員にアプリ作成権限が付与され、研修を経て導入が進められました。
ハッシー氏自身は当時経理部に所属しており、まずは自身の部署内の業務改善のためにアプリを作成するところからkintoneの活用を始めました。
ハッシー氏の役割は、当初のアプリ構築者から、現在はkintoneの管理側に移行しています。
具体的には、作成されたアプリの精査、社内規定に沿った作りであるか、関係ない事業に見せないようなアクセス権の設定がされているかなどをチェックする業務を行っています。
現場の社員にはアプリ作成権限が付与されており、現場が作成したものを管理側がチェックする体制が整っているのが現状です。
ハッシー氏がkintone管理者に就任したのは、本年度、すなわち4月からであり、管理者の立場としては初心者であると述べています。
kintone構築者から管理者へ|視点の変化と質問対応の重要性
kintone構築者から管理者へなった際の変化を紹介します。
- 役割転換で直面した課題
- 質問の意図を理解することの重要性
- 回答方法の改善と意識の変化
kintoneの構築者から管理者の立場へ移行したことで、ハッシー氏は心理的およびスキル的な面で大きな変化を経験しました。
役割転換で直面した課題
上室(情報システム部門)に入って数ヶ月経ち、自身の部署のアプリを作成することと、運用者として作成部門とやり取りすることとは全く異なることに気づきました。
以前は、社内でkintoneに詳しい人として、質問に対してアドバイスをするだけでした。しかし、管理者の立場では、単にアドバイスをするだけでは不十分です。
具体的な失敗事例として、表示フィールドをプルダウンで切り替えたいという質問に対し、「基本機能ではできません」と回答した結果、アプリが分かれてしまったケースを挙げています。
しかし、レコードアクセス権限を活用すれば、一つのアプリで対応できた可能性があり、その時に選択肢を与えられなかったことを悔やんでいます。
これは、質問の意図を正しく理解できていなかったことに起因していました。
質問の意図を理解することの重要性
この経験から、ハッシー氏は「何をしたいからこの質問をしているのか」という質問の意図を正しく理解する必要性を強く感じました。
以前は質問や相談の裏側まで見ることができていませんでしたが、この出来事をきっかけに、相手が解決しようとしている課題を引き出す意識を持つようになりました。
回答方法の改善と意識の変化
質問の意図を理解することの重要性に気づいた後、ハッシー氏は対応を変化させました。
具体的には、相手が何のためにそれをしたいのかを聞いてから回答するように心がけるようになりました。
また、常に最新の情報を収集し、知識の引き出しを増やしています。
kintone認定試験への挑戦や、サイボウズ社の営業本部チャンネルからの情報収集、kintoneコミュニティでの交流などを通じて、社外で情報を得る機会に恵まれるようになりました。
これらの知識を活用し、プラスアルファの回答を提供するように意識しています。
構築者の段階では分からなかった「質問の意図を正確に理解すること」の重要性に、管理者の立場になって初めて気づき、実践できるようになりました。
この理解と実践があるかないかで、出来上がるアプリやそれに対するアドバイスが大きく変わってくるため、柔軟性の高いkintoneにおいては特に重要な点であると述べています。
kintone導入初期と運用時の具体的な苦労
kintone導入初期と運用時の具体的な苦労を紹介します。
- 未熟さゆえのデータ操作ミス
- アプリ作成と管理の課題
- 外部パートナーへの羨望
kintone導入から8年が経過したケアパートナー株式会社では、導入初期から様々な苦労がありました。
未熟さゆえのデータ操作ミス
導入当初は未熟さが原因で、今では考えられない失敗をして周囲に迷惑をかけていたと述べています。
フィールド削除によるデータ消失: フィールドを削除すると過去のデータも全て削除されるという仕様を意識せず削除してしまい、冷や汗をかいた経験があります。
幸いにも重要なファイルではなかったため大事には至りませんでしたが、もし重要データであれば大きな問題になっていたでしょう。
また、レコードを更新するためにCSVを読み込む際、レコード番号を選択しなかったため、レコードが倍増してしまったこともありました。
アプリ作成と管理の課題
導入したばかりの頃は失敗がつきもので、後にアプリを見返した際に、不適切な作りになっていることに気づくことが多々ありました。
例えば、社員番号がルックアップで引っ張ってこられるにもかかわらず、手入力で作成されたアプリが多数存在していました。
このような「なんでこう作ったんだろう」という疑問が残るアプリが多く存在したと述べています。
外部パートナーへの羨望
最近は、kintoneコミュニティでの交流を通じて、外部の構築パートナーや支援会社がアプリ作成を手伝ったり、改善点を教えてくれたりする環境を羨ましく思うようになりました。
ケアパートナー株式会社では、ベンダーはいるものの、これまで完全に内製でkintone運用を進めてきたため、「内製が当たり前」という認識が強く、外部に協力を依頼するという発想があまりなかったと説明しています。
しかし、構築パートナーがいれば、作成したアプリを詳しく見てもらい、すぐに分かる間違いを指摘してもらえる環境は非常に恵まれていると感じています。
kintoneは非常に柔軟なシステムであるため、何でもできるがゆえに、何をすべきか分からなくなるのが問題です。
自分たちのやりたいことに対して「これが最適解なのか」という不安を抱えたまま進むことも珍しくありません。
構築会社が入ることで、ある程度の最適解を提示してもらい、運用に合わせて微調整するだけで済むため、最初から自分たちだけで進めるよりも安心感があります。
kintoneの「内製化」で直面した課題
kintoneの「内製化」で直面した課題は以下のとおりです。
- アプリ上限数と管理の困難さ
- 業務改善への積極的な文化がもたらす問題
ケアパートナー株式会社では、kintoneの内製化を進める過程で様々な課題に直面した過去があります。
全社員へのアプリ作成権限付与 内製化を始めるにあたり、社員全員にアプリ作成権限が一律で与えられました。
ハッシー氏自身は、これを「平等なチャンス」と捉え、前向きに取り組んでいました。
しかし、管理側の視点から振り返ると、現場から一斉にたくさんのアプリが作成されたため、それに対する問い合わせ対応が非常に大変であったと述べています。
この状況は「カオス」と表現されています。
アプリ上限数と管理の困難さ
導入当初はライトコースを利用しており、アプリの上限が200件でした。
内製化が始まってから半年から1年ほどで、アプリ枠を保持するためのアプリ(すぐに消去される予定のアプリ)が存在するようになり、「このアプリを今から消すから、今のうちに自分のアプリを追加してほしい」といったやり取りが日常的に行われていました。
当時は月に1つのアプリを作成するペースだったため、今思えば、フィールドを追加し一覧で月別に切り替えれば、そのようなやり取りは不要であったと振り返っています。
一般的にシステム導入後、社員があまり触らないケースも多い中で、ケアパートナー株式会社では導入直後から多くの社員が積極的にアプリを作成し、あっという間に上限に達したという状況は特筆すべき点です。
これは、業務改善の意識付けが本社社員全員に強く根付いていたためと考えられます。
業務改善への積極的な文化がもたらす問題
積極的なアプリ作成の文化は良い面もありましたが、同時に管理の複雑さを増大させました。
kintoneに対するアレルギー反応を示す社員が少なかったため、導入当初からスムーズに社内に浸透しました。
これは、トップダウンで「利用しなければ仕事が進まない」という文化が強く、使わないことが「業務放棄」「職務放棄」と見なされるほどの環境であったことも影響しています。
kintone定着化におけるアクセス権限とルール設定の課題
kintone定着化におけるアクセス権限とルール設定の課題を紹介します。
- 現場と管理者の役割分担
- 教育の重要性
kintoneの定着化フェーズでは、アクセス権限やルール設定に関する課題が浮上しました。
アクセス権限の意識不足とクレーム 社員のアクセス権限に対する意識が希薄であったため、必要のないアプリが多数存在し、「邪魔」というクレームが頻繁に寄せられました。
この時期はまだライトプランであったため、アプリ作成に関する明確なルールが整っていない状態です。
ある日、身に覚えのないアプリに対する問い合わせがあり、ハッシー氏がアプリの最終更新者から作成者を特定して事情を聞くと、その作成者はテストをしたかったのだと分かりました。
この経験から、アプリ作成権限を誰でも作成できる状態から、本社限定に変更してもらうことになりました。
現場と管理者の役割分担
現場の社員はアプリ作成時にアクセス権の設定方法が分からず、適切でない設定でアプリを作成してしまうことがありました。
これにより、見せてはいけない情報が見えてしまうなどの問題が発生し、クレームにつながりました。
ハッシー氏は、誰がそのアプリを作成したのかを特定し、発生した問題に基づき、「どのような権限を付与すべきか」という教育を行っています。
kintoneの導入は、事前の教育や基礎知識の研修なしに、システムが社員に「ポンと渡され」、利用が始まった形でした。
そのため、運用しながら社員が学び、並行して社内のkintoneルール作りが進められました。
ハッシー氏は、この経験から、初期段階でルール決めや基礎知識の教育を徹底することが非常に重要であると述べています。
いきなり運用を始めてしまうと、見せてはいけないものが見えたり、アプリが乱雑に作られたりして、混乱が生じる可能性が高まります。
教育の重要性
管理者に就任する以前、ハッシー氏は自身の部署のアプリが完成していれば十分と考えており、他部署のアプリについては管轄外として済ませてしまうことも許されていました。
また、面倒な場合は、画面共有などで操作許可を得て、アプリの設定自体を自身が引き受けてしまうこともありました。
つまり、「私が設定するから権限をください」という対応を取っていたのです。
しかし、このような対応は、後々の責任を持たない無責任な行為であると考えるようになりました。
本来であれば、その部署が自身で管理できるよう、辛抱強く質問を聞き、サポートを提供し、その後の対応をその部署の管理者に任せることが求められます。
kintone管理者は、自ら設定する方が早いと感じてしまうものの、それではアプリを作成した人が学ばず、育たないため、同じ質問が永遠に来て、管理者が疲弊する結果となります。
これは「魚を与えるのではなく、釣り方を教える」という考え方に通じるでしょう。
管理者に就任して初めて、現場の人が覚えるように辛抱強く教育することが、管理者として必要な素養であると気づき、実践していると述べています。
しかし、この教育は時間がかかり、自分自身でやってしまった方が早いと感じることも多いため、大変な業務であると説明しています。
ケアパートナー株式会社では、管理職のメンバーも独学でkintoneを運用しており、多くの失敗を重ねながら知識を高めていきました。
社内でkintoneの情報交換会は特にありませんが、社員が自らアプリを作成し、改善していく中で自然と学び合う文化が育っていきました。
kintone導入がもたらした効果と社内文化の変革
kintone導入がもたらした効果と社内文化の変革は以下のとおりです。
- 費用対効果の感覚
- 紙運用からの脱却とテレワークの推進
- 情報共有と自発的な業務改善文化
様々な苦労を乗り越えた結果、ケアパートナー株式会社ではkintone導入による多大な効果を実感しています。
現在、全ての事業と本社全ての従業員、全ての部署でkintoneを活用し、アプリを作成している状況です。
費用対効果の感覚
費用対効果という点では、紙の書類の量が減少したという定量的な変化よりも、紙や印鑑の苦労がなくなったという定性的なメリットを強く感じています。
具体的には、印刷した紙がどこにあるか分からずに探す時間や、承認が必要な紙を誰が持っているのか聞き回る時間がなくなりました。
紙運用からの脱却とテレワークの推進
新型コロナウイルスの影響でテレワークを推進する際も、kintoneの導入により、意外なほど苦労せずに場所を選ばずに働けることが分かりました。
これは個人的に想像を超えた効果であったと述べています。
情報共有と自発的な業務改善文化
kintone導入の最大のメリットの一つは、社内文化が変革されたことです。
現場の事務員であるベテラン社員がアプリを作成し、その作成方法を聞くと「他の人のアプリを参考にした」と回答するエピソードが紹介されています。
これは、ケアパートナー株式会社において、もはや「当たり前の文化」となっていることを示しているでしょう。
kintone内に情報が散在しており、そこから自社の部署に合うものをカスタマイズして活用する感覚が社員全体に根付いています。
正式な情報交換会はないものの、日常的に「これ、kintone化できるよね」といった立ち話での会話が頻繁に行われています。
kintone導入以前は、現在の業務に疑問を持つこと自体が少なかったかもしれません。
しかし、kintoneの導入によって「何ができるか」が明らかになり、業務の改善点を考える発想や思考回路が育まれました。
これにより、日常的に行っていた無駄な業務が減少し、紙の運用も当然ながらなくなっていきました。
これらの効果から、ハッシー氏はkintoneがケアパートナー株式会社にとって「なくてはならない存在」であると断言しています。
導入初期のアプリの乱雑な作成や、予期せぬクレームといった苦労があったものの、それらを乗り越えた結果、現在の成功したkintone運用が実現しました。
kintone導入・運用を検討する企業へのアドバイス
kintone導入や運用を検討している企業、あるいは既に導入しているものの浸透に悩んでいる企業に対し、ハッシー氏から実践的なアドバイスが送られています。
kintoneアプリはプログラミング言語を覚えることなく作成できます。しかし、その「仕組み」を理解することは不可欠です。
驚くべきことに、知識がない人でもkintoneアプリを正しく作成し、業務改善を実現することができます。業務改善を自ら実感すると、それが楽しくなり、さらに改善を進めたくなります。
このような「業務改善が楽しい」と感じる社員が増えることで、会社の文化が変化し、最終的に会社全体として大きな成果につながるでしょう。
そのため、kintoneへの取り組みを諦めずに続けることが重要です。
また、経営陣にもこの点を理解してもらい、早い段階で会社全体を巻き込むことで、成果に繋がるスピードが加速すると述べています。
恐れることなくkintoneに挑戦してみることを推奨しています。
まとめ|kintoneの導入・運用は「まずはやってみること」が大切
ケアパートナー株式会社では、社員が恐れることなくkintoneに積極的に挑戦する文化が根付いています。
この「まずやってみる」という文化があったからこそ、多くの失敗を経験しつつも、迅速にPDCAサイクルを回し、改善すべきルールをすぐに策定し、kintoneの文化を社内に根付かせることができました。
これは、多くの企業で起こりがちな「これをやったらうまくいかないかもしれない」「こういうパターンも考えられるから」といった躊躇をせず、「まずはやってみる」ことの重要性を示しています。
このような文化を持つ企業は、kintoneの導入と運用において早く成功する可能性が高いと述べられています。
この事例は、「まずやってみる」文化がまだ根付いていない企業にとっても、kintone導入成功のヒントとなるでしょう。
なお、ペパコミ株式会社では、「kintone」を活用した業務支援を行っています。業務効率化にお悩みの方は、ぜひ以下からお気軽にご相談ください。
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