受託事業を展開するシュビヒロ株式会社では、案件や請求の管理にスプレッドシートを使用していたことで、入力遅延や請求漏れといった課題が発生していました。
こうした状況を改善すべく、ペパコミ株式会社の支援のもとkintoneを導入しました。
本記事では、複雑な業務フローに対応するアプリ設計の全体像や、実際の運用を想定した懸念点・工夫点、導入後の展望までを詳しく解説します。受託業務の効率化にkintoneを活用したい方は、ぜひご参考ください。
なお、ペパコミ株式会社では、kintone構築から伴走支援を行っているので、ぜひご相談ください。
受託事業における課題とkintone活用の背景
ペパコミ株式会社は、kintone(キントーン)を活用した開発支援を通じて、受託事業を展開するシュビヒロ株式会社の業務課題解決に取り組みました。シュビヒロ株式会社は、X(旧Twitter)やYouTubeの運用代行など、多岐にわたる受託業務を請け負っています。
同社の課題は、主に案件管理と請求書発行における漏れをなくし、プロセスを円滑に進めることでした。当時は、案件管理や請求書作成の業務をスプレッドシートで実施していました。
YouTube運用代行の場合、動画の尺によって単価が変動し、同じ本数の動画を納品した場合でも、1本あたりの金額が異なる場合があるため、複雑な管理が必要です。スプレッドシート上で関数やマクロを用いて合算請求書を作成し、都度コピー&ペーストして送付している状況です。この運用方法により、スプレッドシートへの入力遅延や請求書発行の遅延が発生していました。
kintoneによるアプリ設計の全体像
シュビヒロ株式会社の課題解決のため、kintoneを用いたアプリ設計が提案されています。この設計は、案件と請求の管理を中心に据え、効率的な業務フローを構築するものです。
提案されている主要なkintoneアプリは、主に下記のとおりです。
アプリ名 | 概要 | 主な役割 |
取引先マスタアプリ(顧客マスタ) | 顧客情報の管理 | 顧客の基本情報を一元的に管理します。 |
案件管理アプリ | 案件の基本管理 | 顧客から請け負った案件(例:X運用代行、YouTube運用代行)を案件ごとにレコードとして管理します。 |
活動メモアプリ | 案件に関するメモ | 案件に関する簡易的なメモを記録します。 |
契約管理アプリ | 契約情報の管理 | 各案件に紐づく契約情報(例:月額契約、スポット契約、単価、納品日)を詳細に管理します。これが請求管理の基盤となる主要なアプリです。 |
実績集計アプリ | 契約管理データからの実績集計 | 契約管理アプリからのデータを集約し、売上実績の把握に活用します。 |
請求管理アプリ | 請求データの生成と管理 | 実績集計アプリのデータに基づき、請求書発行に必要な情報を生成・管理します。 |
請求書出力 | 請求書の出力 | 請求管理アプリのデータから請求書を出力します。 |
商材マスタアプリ | 商材(サービス)の管理 | サービスごとの請求有無の管理や、顧客ごとの単価変動への対応を検討します。 |
この全体像では、まず顧客マスタから案件管理アプリへ、そこから契約管理アプリへと情報が連携されます。契約管理アプリのデータは実績集計アプリを経由し、請求管理アプリへと流れ、最終的に請求書が出力される流れになっています。
kintone導入における主な検討事項と懸念点
kintoneの導入と運用を円滑に進めるためには、以下の検討事項と懸念点がありました。
- 案件管理アプリの粒度と運用
- 請求が不要な案件の実績管理
- 商材マスタと単価管理
これらの点を事前に確認し、対応策を講じることで、導入後のトラブルを回避し、システムの定着を促します。
案件管理アプリの粒度と運用
案件管理アプリにおいて、案件のレコードをどのような基準で分けるべきかという点が議論されました。
例えば、「ペパコミX運用」を1レコードとするか、担当者が異なる場合に「ペパコミX運用Aさん」「ペパコミX運用Bさん」のように、案件ごとにレコードを分けるべきかという課題があります。
現在のスプレッドシートでは案件ごとに担当者が記載されているため、顧客単位ではなく案件単位で担当が割り振られている場合があるため、確認が求められます。
また、運用形態によってはアクセス権の制御も考慮する必要があります。商材単位での管理が推奨されますが、この点は顧客に確認が必要でした。
請求が不要な案件の実績管理
X運用代行のように、クレジットカード引き落としのため請求書発行が不要なサブスクリプション型の契約があります。このような案件についても、売上実績の管理は必要です。
そのため、契約管理アプリには「請求不要」のフラグを設け、そのフラグがある場合は請求管理アプリへは反映しないようにする運用が検討されています。また、実績値の集計のためには、契約管理アプリと請求管理アプリの間に実績集計アプリを挟むことで、すべてのデータを取得し、必要なデータのみを請求管理アプリへ連携させる方法が検討されました。
商材マスタと単価管理
特定の顧客や商材によって単価が異なるケースがあるため、サービスマスタを顧客別や商材別に管理する場合もあります。また、過去の顧客には安い価格が適用され、最近契約した顧客には現在の定価が適用されるといった事情があり、この価格差異を忘れてしまう問題がありました。
契約管理アプリに登録する際に、契約時の価格を記録するなどの工夫が必要です。YouTube動画の運用代行では、動画の尺(分数)によって単価が変わるため、分数を入力すれば金額が算出される仕組みや、端数の処理方法(切り上げ、切り捨てなど)の確認も必要です。
大量のデータ入力と組織構造の課題
kintoneへのデータ入力負荷は大きな懸念点です。例えば、YouTube運用代行で月10本の動画を50社で管理する場合、月に500件ものレコードを登録することになり、担当者が継続して入力できるかどうかが課題です。
現状のスプレッドシートでの入力が遅延が請求遅延につながっています。シュビヒロの組織構造はPM、サブPM、作業者の三層構造であり、PMが最終的な入力を行っています。
提案として、サブPMが直接契約管理アプリに入力し、PMがプロセス管理で承認する仕組みを構築することで、PMの入力工数を削減することが検討されました。
外注費と経費の管理方法
シュビヒロは多数の作業者に外注しているため、外注費の支払い管理も重要です。
外注先の請求金額が正しいかを確認するため、契約管理アプリに作業者情報を登録し、支払い管理アプリを作成して、外注先からの請求書と契約管理アプリのデータを照合する仕組みが検討されました。
また、交通費やディレクション費などの実費精算についても課題があります。
これらは顧客に請求する項目でありながら、売上とは異なるため、経費精算アプリを別途作成し、請求管理アプリに連携させる方法が議論されました。現状の運用と異なるため、運用担当者が混乱しないよう、注意深い対応が求められました。
進捗状況の管理と入力負担
動画制作には「未着手」「制作中」「修正中」「完成済み」「投稿済み」などの進捗状況があります。これらをkintone上で管理する場合、数百本の動画のステータスをサブPMが手動で変更する作業は大きな負担となる可能性があります。
また、現状のスプレッドシートでの進捗管理が形骸化している可能性も指摘されています。
そのため、入力と同時に進捗ステータスが自動で変更される仕組みの導入や、実態に合わせたシンプルな進捗管理にすることが検討されました。また、スマホでの入力が実現できれば、現場での入力作業が容易になるという期待もあります。
kintone導入後の展望と今後の課題
kintoneの導入は、シュビヒロの業務効率化と経営状況の可視化に大きく貢献します。しかし、システムの構築だけでなく、現場の運用定着までを見据えた継続的な取り組みが重要です。
kintoneによる請求書発行は、現状のメールでの手動送付から改善される見込みです。将来的には、請求管理アプリで入金消し込み処理を行い、さらに会計システムと連携することで、入金管理も含めた一連の業務を自動化する展望が望めます。
また、YouTube動画制作以外にも、LP制作や名刺制作など、様々な種類の案件が存在します。これらの細かい案件をどこまでkintoneで管理するかの線引きが今後の課題でした。案件管理アプリのドロップダウンリストで対応できる範囲に留めるか、サービスマスタで詳細に管理するかなど、実情に合わせた設計が必要です。契約書締結のタイミングで単価が決まるケースもあるため、その点も確認し、適切なタイミングでkintoneに情報を入力するフローを確立する必要があります。
なお、kintone導入の成功には、契約管理アプリへの正確なデータ入力が不可欠です。現状の課題を解決するためには、組織構造と連携した入力体制の構築が重要になります。また、経営者の認識と現場の業務実態との間に乖離が生じやすい業態であるため、ヒアリングを通じて現場の声を反映させながら、実際の運用で試行錯誤を重ね、段階的にシステムを改善していく必要があります。
業務実態に寄り添うkintone活用で受託事業の課題を解決
シュビヒロ株式会社のように、業務内容が多岐にわたり、請求体系が複雑な受託事業では、スプレッドシートでの管理に限界が生じます。
kintoneを活用することで、案件から請求、外注費や経費の管理までを一元化し、業務の抜け漏れを防ぎながら効率化を図ることが可能です。
ただし、システム構築だけでなく、現場の実態や入力負担を考慮した運用設計が不可欠です。本事例は、現場と経営の認識をすり合わせ、段階的に最適な運用体制を築くことが、kintone導入成功の鍵であることを示しています。
なお、ペパコミ株式会社では、kintone構築から伴走支援を行っているので、ぜひご相談ください。
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